ワインを活かした地域振興のリーダー 小松千万蔵

「この会は片丘地区内で生産されたワイン及び原料ブドウの品質向上につとめ、もって片丘ワインブランドを確立することを目的とする。片丘地区の景観を活かした観光と農業振興を融合し、もって住みやすい地域づくりに貢献することを目的とする」(片丘ワイン振興協議会)

2023年4月3日、片丘の北熊井公民会で総会が開催され、片丘ワイン振興協議会が設立された。発起人・会長は、片丘で農業を営み、農協理事、塩尻市会議員、長野県会議員を歴任した小松千万蔵(ちまぞう)氏(以下敬称略)が務める。メンバーには、ブドウ栽培農地を支える営農改善組合の関係者、ワイン用ブドウの栽培生産者、そしてワイナリーとしてはドメーヌ コーセイ、丘の上 幸西ワイナリー、メルシャン 片丘ヴィンヤードが参画した。設立総会では、塩尻市長、塩尻商工会議所会頭、塩尻市観光協会会長から祝辞と応援のメッセージを得た。

小松千万蔵は、昭和18年(1943年)、片丘の農家の長男として生まれた。

「父親は農業に熱心でした。養賢堂の『農業および園芸』をずっと購読し、研究していました。わたしもそれに刺激されて、農業高校に入ったときから、農業の未来に思いを巡らせます。養蚕やトウモロコシ、大豆などの穀類中心から、野菜を中心とした畑作へと展開していこうと考えました」

小松は、自ら野菜栽培を進めるだけでなく、農協の野菜部会長を務めるなど、リーダーとして地域の野菜栽培の普及に取り組んだ。

「当時は土地が痩せていたので、まず土を造ることが大切でした。組合員の皆さんの畑をひとつずつ回って、県の職員と一緒に土壌検査をして、その分析をもとに野菜栽培の指導をしていきました」
    

「農業振興のためには、栽培指導など地域での取り組みだけでなく、行政と共に政策を動かしていかなければ」

小松は、農協の理事を三期9年務めた後、48歳の時に市会議員となり三期12年を務めた。さらに、60歳の時に県会議員となり三期12年を務めた。

長野県は2013年(平成25年)3月、「信州ワインバレー構想」を策定し、ワイン用ブドウとワインの産地として、栽培から醸造、販売、消費にわたって振興することを宣言した。その前年、2012年2月の長野県議会において、その端緒となる発言をしたのが小松であった。

「ワイン振興とブランド化について(知事に)伺います。長野県は、降水量が少なく、水はけがよく、標高700メートルから800メートル台の標高を持つワイン用ブドウの栽培に適した地域は数多くあります。特に、最近は、地球温暖化により、長野県の気候条件や標高差を利用し良質のワイン醸造をするため各メーカーが進出してきています。また、遊休農地利用によるワイン用ブドウを植えつけた上田市、東御市、池田町、塩尻市など、今後の期待もかかっています」

「世界に通ずるワインとするため平成14年度から始めた長野県原産地呼称管理制度は、確実にその評価と底上げが図られ、国内はもとより世界に誇れるワインが醸造されるまでになり、国際ワインコンクールで金賞や最優秀賞など数多く受賞しています。長野県にますますシフトしてきている証拠でもあり、長野県産ワインの品質は日本一になり得ると思います。遊休農地対策として、また観光との融合など、長野県の第6次産業化の強力な推進品目として全国にアピールできるものと思います」

「信州ワインバレー宣言をするとか、全国に強いイメージを発信することが非常に大事だというふうに思っていますので、知事の決意をぜひ」
    

塩尻市片丘地区では、1978年(昭和53年)から1982年(昭和57年)の五年間にわたり、国の新農業構造改善事業として土地改良と施設基盤整備を行った。その後の三年間は、未来に向けた農業の方向性を地域が自ら議論し推進する補助事業があり、その一環として小松が中心となり北熊井農用地利用営農改善組合(営農改善組合)を設立した。当時は小松が推進してきた野菜栽培の最盛期であり、遊休農地という課題はなかった。しかし、2000年代にはいると状況が変わる。

「十数年前から、農家の高齢化が進み、農業を継ぐものも減り、遊休農地が増えてきてしまいました。片丘の農地、風土を守っていきたい。そこで、営農改善組合が遊休農地の受け皿となって、荒廃地とならないように維持していくことにしたのです」

営農改善組合は3.5ヘクタールの農地を管理し、蕎麦や麦など、作業を機械化して労力を抑えられる作物を栽培してきた。

そして遊休農地の活用としてワイン用ブドウ栽培が注目される。2013年3月には信州ワインバレー構想が策定され、2014年5月には塩尻ワイン大学第一期が開講した。

「片丘は、標高710メートルから820メートル。それまでブドウ栽培はほとんどありませんでしたが、土壌、日照、風通しなど、ワイナリー関係者から適地としての期待が聞こえてきます。通常は、新規にブドウ栽培をしたい方がいて、その土地を探そうとすると一年ぐらいはかかります。営農改善組合が管理している農地は、ワイン用ブドウ栽培に使いたいという方がいれば、すぐに提供することができました」

「地域の農業委員の皆さんとも協力して、片丘地区全体でいつでも提供できるように整えています。これまで何人もの栽培者の方に提供してきましたが、やはり農家の高齢化で遊休農地は新しく生まれてしまいます。現在も3.5ヘクタールぐらいを営農改善組合で管理して、準備しています」
    

小松と片丘地区の農家・農業関係者の努力が結実し、2016年、丘の上 幸西ワイナリー、ドメーヌ コーセイ、シャトー・メルシャン 片丘ヴィンヤードがワイン用ブドウの栽培を開始した。塩尻ワイン大学の卒業生をはじめ、片丘でのワイン用ブドウ栽培への新規就農は続き、新しいワイナリーの設立準備もある。2024年現在、片丘地区全体でのワイン用ブドウ栽培面積は約40ヘクタールへと広がっている。

「信州ワインバレー構想のなかでは、塩尻市は桔梗ヶ原ワインバレーと位置づけられていますが、『桔梗ヶ原』は奈良井川東岸と田川西岸の間の地区です。わたしたちは『塩尻ワインシティ』のなかで、『片丘』を『桔梗ヶ原』に並ぶ銘醸地、ブランドにしていきたいのです」

ドメーヌ コーセイが醸した「片丘メルロ2019」は世界の最も優れた酒、新しい酒を選出するヨーロッパの品評会であるボルドー酒チャレンジにおいて最高金賞を受賞した。シャトー・メルシャンからは、「桔梗ヶ原」「椀子」と並ぶ長野のヴィンヤードとして「片丘」を冠したワインがリリースされ好評を博している。

「ドメーヌ コーセイ、シャトー・メルシャン、丘の上 幸西ワイナリーとともに、ワイン産地として『片丘』の名前が広がってきましたが、全国、国際的にはまだまだこれからです。また、塩尻ワイン大学でブドウ栽培を志している人、片丘のブドウを使ってワイナリーを準備する人たちが続いています。そうした皆さんを、片丘の地元として支援したいという思いから、2023年に片丘ワイン振興協議会が生まれました。ブドウ栽培を始めたい人やワイナリー開設をしたい人へは、農地の提供だけでなく農業委員会や県への手続きの支援など、協議会としてもお役に立ちたい」

「ワインだけでなく景観や特産物についても、もっと知って楽しんでいただき、『片丘』というブランドを広めていきたい。アルプス展望しののめのみち・山麓線からの風景の写真コンテストをしました。夜景も素晴らしいので、片丘ワインと花火で夜景を楽しむ会もあります。片丘出身の料理家、浜このみさんには、片丘ワインにあう料理をつくってもらいました。片丘ではよい蕎麦も栽培されているので、塩尻ワインと日本酒とそばで乾杯、という会も開催しました。山麓線は『片丘ワインロード』として観光にも来ていただけるように、秋にはワインレッド色に紅葉する、スウェーデン楓を植樹していきます」
    

『片丘ワイナリー物語』(新居直明、2024年7月)より

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