イタリアンシェフが語る信州塩尻の魅力

信州はトスカーナかな
「長野に住んで料理をはじめると、信州の野菜に驚きます。ふつうの野菜が美味しい。それがイタリアのトスカーナで食べた野菜を思い出させます。何故だろうと気になります。丘陵があり、朝には霧がかかり、寒暖差もあります。土や気候が似ているのかもしれません」


本稿は、2024年1月に収録しました。フォンターナデル ヴィーノは2024年3月をもって塩尻駅前テナントを閉店し、野中健一氏は次のチャレンジに取り組んでいます。


    

塩尻へようこそ

フォンターナ デルヴィーノ(Fontana del Vino ワインの泉) 代表の野中健一です。

ここ塩尻は、標高700メートル、松本盆地の南に位置して山に囲まれ、空気のきれいなところです。桔梗ヶ原を中心に南西には洗馬、東には片丘から柿沢、善知鳥峠を越えた南には小野と、ブドウ畑が広がります。ワイン造りの歴史は古く、林農園(五一わいん)がブドウ栽培を始めたのは1919年(明治44年)。この土地に魅せられて新しいワイナリーも生まれ、2010年にブドウ栽培を始めたサンサンワイナリーをはじめ、現在15のワイナリーが塩尻にはあります。

大好きな塩尻のワインと食材をみなさんにも楽しんでいただきたくて、この店を開いています。そんな僕のストーリーです。

    

リンゴが自分で食べたくて

昭和51年(1976年)、神奈川県に生まれました。姉が二人いてケーキを焼いたり、母は料理が好きだったようです。

僕も食べるのが好きでした。今でも覚えているのは小学校二年生の時、母に包丁を使ってリンゴの皮のむき方を教えてもらったことです。丸かじりすると一個は多すぎるし、頼むのもめんどくさい。好きな時に好きな量を食べたかった。包丁の持ち方や親指の当て方、カットの仕方を習いました。

包丁が使えるようになると少しずつ料理に興味を持ち始め、学校から帰ってくるとテレビの料理番組に目が留まります。四年生のころ、ジャガイモとウィンナーを炒めてカレー粉で味付けする料理があり、これも食べたいなと思い、自分で作りました。五年生になると家庭科の実習がありますが、手際のよい女子に負けないくらいです。

    

調理師の道へ

高校を卒業し、いくつか仕事をしてから二十歳になり、何をして生きていこうかな、と考えたとき、答えは料理でした。東京の練馬でアパートを借りて、新宿調理師専門学校に通います。学びながら働ける仕事を探していた時、京王プラザホテルの調理場、しかもメインキッチンで採用してもらえました。運がよかったのは、ホテルではソースやブイヨンなど、出来合いではなく一からつくっていたので、料理はまかされなくても基本を学ぶことができたのです。フランス語も飛び交う現場だったので刺激があり、学校での授業にも身が入ります。

調理師学校を卒業するとき、京王プラザホテルでお世話になったシェフが独立して、横浜でイタリアンレストランを始めていました。声をかけてもらい、そこで働きます。


イタリア・トスカーナでの経験

本場のイタリアに行きたい、と思いました。お店が終わってから他でアルバイトをして貯金します。レストランの先輩の一人がトスカーナで語学留学しながら働いていました。そこに転がり込んで、観光ビザなので無給で手伝わせてもらうことができました。

ルッカ(Lucca)という郊外の町でした。少し離れたところには丘があり、オリーブ畑やブドウ畑が広がり、ワイナリーもあります。そこでは、地元の食材を使って作った料理が、その町のイタリアンです。日本から来た僕にも「これ食べろ、これ飲め」と勧めらるのが嬉しかったです。

同じ料理でも、日本とイタリアでは違うことを実感しました。リゾットを食べたとき、イタリア米のアルデンテで表面がしっかりしていて、もっちりした日本米とは別の感覚。日本は軟水だけどイタリアは硬水で、それがブイヨンやフォンドボーの味わいを引き立てています。

    

日本でもイタリア、鎌倉リッチョーネ

帰国してもイタリアを感じられるお店で働きたいと仕事を探していた時、鎌倉「リッチョーネ」の募集がありました。まず客として食べに行くと、スタッフは皆日本人ですがイタリア語が飛び交っています。伝票もイタリア語で書き、厨房のオーダーもイタリア語です。

「今は料理人はいっぱい。ホールで人がいないんだけど、やらないかい」と言われます。接客経験はなかったのですが、やってみよう、空いたら厨房に入ろう、と勤めはじめます。振り返ると、これがすごい経験になりました。

リッチョーネは、イタリアの良いワインを揃えていて「どのワインもグラスで飲めます」が謳い文句でした。当時ほとんどのレストランでは、グラスで飲めるのはハウスワイン、選べるのはボトルだけでした。まだコラヴァン(CORAVIN)はなくバキュバン(Vacu Vin)でしたので、「これ開けたからね」と、その週のうちにお店のお客さまに飲んでいただけるよう、スタッフも味見をしました。どんなワインも開けないと味わえません。

ワインの品揃えはどんどん変わっていくので、「ワインリストはわたし」でした。いつも三本ぐらいのボトルを持ってお客さんのテーブルに並べて、料理にあわせてお薦めし、産地や特徴についても話していました。

お客さまへの接客の楽しさは、難しさもありましたが、厨房だけだは経験できなかったことです。

    

信州はトスカーナかな

安曇野アートヒルズミュージアムにはイタリアンレストラン「クインディチ」があり、そのリニューアルの時にシェフを任されました。

神奈川から引っ越してきたのは寒い二月でした。駅を降りたときに、すごい空気がきれいだなと感じ、何度も深呼吸したことを覚えています。

長野に住んで料理をはじめると、信州の野菜に驚きます。ふつうの野菜が美味しい。それがイタリアのトスカーナで食べた野菜を思い出させます。何故だろうと気になります。丘陵があり、朝には霧がかかり、寒暖差もあります。土や気候が似ているのかもしれません。

2012年8月、塩尻に新しいイタリアン・レストランが開店することとなり、店長を任されました。

野菜だけでなく、近くにブドウ畑とワイナリーがあります。しかも、とても身近です。秋になると、街全体にナイアガラ(ブドウ品種)の香りがただよいます。近くのワイナリーがブドウを仕込んで醸し始めると、その香りでわかります。

ここは日本ではない、そう思いました。

店の名前については、塩尻の駅前で地元のワインを楽しめるお店、というコンセプトでイタリア語の「ワインの泉」、「フォンターナ デル ヴィーノ (Fontana del Vino)」と命名しました。

    

地元の食材とワインを楽しんでいただきたくて

塩尻の良質で多彩なワインを、地元の方にも訪れる方にも楽しんでいただきたい。ワイナリーの造りて、ブドウの品種、栽培する畑、収穫年、ビンテージ(熟成)などの違いも感じてほしい。そんな思いで、全てのワインをグラスで提供しています。

最新のワインサーバー「エノマティック (enomatic)」を揃え、コラヴァン (CORAVIN) も活用して保存性を高め、希少な塩尻ワインも30ccからお楽しみいただけます。どのワインを食事にあわせるか迷われる時には、少量ずつ飲み比べてから、落ち着いて飲まれるワインを決められるお客さまもいらっしゃいます。今日はメルロー、と決めて、ワイナリーやビンテージの違いを味わっていくのも楽しいです。

トスカーナに行ったとき「地元のものを使って作った料理が、その土地のイタリアンだ」と言われました。ここでイタリアンならば、もちろん塩尻、信州の食材を使って作ります。農家さんが身近なので、おじゃましてレタス、ニンジン、トマトなど、植わっているだけで絶対美味しいと分かります。塩とオリーブだけでイタリアン、そのままお皿で表現したいです。

野沢菜は信州のピクルス。地元野菜の漬物はワインにあいます。味噌や酒粕はチーズとあわせてもいけます。ブドウ畑には以前は桑畑だったところもあります。桑の葉をパウダーにしてピザ木地に入れると、表面はパリッとしてモッチリ感もでました。ほんとに地元の食材とワインに助けられてイタリアンシェフをしています。

    

本日はお越しいただき、また、僕のストーリーをお読みいただき、ありがとうございました。 これからも信州塩尻をよろしくお願いいたします。

2024年1月 野中 健一 

     


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